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自分の専門であるインターネットの計測と解析という研究分野を、専門外の人に説明するのは非常に難しい。 本書は、自分の研究に最も近い一般書籍、というか、僕の研究分野を一般のひとにも分かるように説明しようとしてくれている書籍だ。その意味でこの本がどう評価されるかは、自分の研究が一般に理解されるかどうかと直結している。

筆者はふたりとも僕の良く知る人物で、この本はゲラの段階で読ませてもらった。 まえがきによると、本書は「壊れた事例から垣間見えるインターネットの形」をテーマに、「インターネットそのものを観察する方法を伝える」という試みでもある。一般には知る機会がほとんどないインターネット運用の舞台裏を、インターネット屋の視点から、具体的な事件や障害事例を挙げて説明しようとしている。

筆者は一般向けの読み物を目指したようだが、内容はかなりマニアックであり、実際、詳細までよく調べられていて、僕自身のレファレンスとしても貴重な資料である。 筆者によると、できるだけ事実を正確に伝えて、その解釈は読者に委ねるというスタンスで書いたとのことだが、一般の読者には少し敷居が高いだろう。 正直、ネットワークの専門家でもこれらのトピックを正確に説明できるひとは多くはいない。この本を面白いと思う読者層はインターネット関係の技術者に限られるだろう。一方で、それ以外のひとが、このようなトピックに技術的には分からない部分があるにせよどれぐらい興味を持つか、という事も非常に興味深い。

とにかく、この本が出版されたことは、僕にとって非常に喜ばしい出来事である。

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インターネット新世代
村井純
岩波新書 1227

村井先生の新しい本がようやく出版された。自分は2年ぐらい前に構想段階の原稿を見せてもらったことがあるが、その時点では思いついたままにいろいろな話題が羅列されていて、どうまとめるのだろうという感じだった。

本書はインターネットをとりまく技術や制度や社会の話を広く扱い、それらが今後ディジタル情報基盤としてのインターネットとどう関係してくるかを解説する。 全体を通して、情報のディジタル化によって起こっている社会変化と、その基盤技術であるインターネットの課題を俯瞰する内容になっている。いっぽうで、一般向けの書物としては話題が多岐にわたるうえに、それらの背景説明が十分でない部分があるので、それなりの知識がないと理解は難しいかもしれない。
また、インターネットのコア技術やいわゆる次世代ネットワークの技術解説を期待していたひとには消化不良となるかもしれない。

とはいえ、インターネット技術の関係者として、村井先生ならではの考えが、このように書物になり読めるようになったことは喜ばしいかぎりである。

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Patterns in Network Architecture
A Return to Fundamentals
John Day
Prentice Hall 2007

階層化、名前とアドレシングなど、過去のネットワークやプロトコルデザインに関する議論を振りかえりながら、問題の本質を考えようとする試み。 正しい抽象化として、リカーシブな階層化と、各層に閉じたアドレシングやフローコントロールのモデルを提案し、このモデルをベースにすればマルチホーミング、モビリティ、マルチキャストなどもより簡潔になるとしている。

ひさびさに読んで勉強になったと思った技術本である。
ここまで一貫して抽象化の重要性にこだわって書かれたネットワーク本は他にないだろう。
OSバックグラウンドの自分には、なるほどと納得ができる部分が多い。

一方で、抽象論で終わっていて、具体的なシステムの提案がないので、読後に消化不良を感じる。 また、思想論や現状のネットワーク研究やIETFへの批判があちこちに出てきて、決して読みやすい本ではない。

このモデルをベースに設計された実動するシステムが出てくるのが楽しみだ。

禅とオートバイ修理技術
ロバート・M・バーシング
ハヤカワ文庫 NF332/NF333

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技術本ではないが、技術にも関係しているのでここに載せておく。
電気ショック療法で記憶を奪われた元大学教授が、1974年に出版した自伝的小説。息子とオートバイの旅を続けながら、記憶を奪われる前の自分が追い求めていたクオリティの意味を探求するという哲学的な内容であり、結構難解である。

  • 芸術とテクノロジーは対立する概念ではなく、クオリティという概念によって統合できる。
  • クオリティに目を転じれば、技術的な仕事も職人の仕事ように対象とひとつになって打ち込むことができる。 
  • そのような融合を起こすには、なにより心の落ち着きが必要となる。

このような考え方は、プログラミングとデバックにも通じるものを感じる。
心を落ち着かせ、よく観察し、クオリティにこだわってコードを書く作業は、技術とアートを融合する精神作業と言える。

The Design of Future Things
Donald A. Norman
Basic Books, 2007

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ユーザインターフェイスの権威、Normanの新しい本。
以前読んだ彼の2冊はとても面白かった。"The Design of Everyday Things"で、human centered designの重要性を説き、"Emotional Design"で機能的だけではなく感情に訴えるプラスアルファが必要だと語った彼が、この本では未来のインテリジェントな機械と人間とのインタラクションのあり方について考えている。

マシンには人間の持つコンテキストを十分に理解できない以上、人間がコントロールするモードとマシンが自律的に動作するモードをスムースに行き来できる必要性や、リッチで直感的なフィードバックの重要性を様々な例を挙げて説明している。

読み終わった感想だが、以前の2冊に比べてインパクトは薄かった。すらすらと読めるがあまり残る部分がなかった。
自分の専門に近いので評価が厳しくなっていると思うが、テクノロジーの可能性の多様性に比べて、インタラクションの捉え方がコンサーバティブで広がりがない気がする。未来を語るときにはもっとぶっ飛んだ発想がないともの足りなく感じるのかも知れない。

Visualizing Data

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Visualizing Data
by Ben Fry
O'Reilly Media, Inc. Jan 2008.

データの可視化のプログラミング本で、Processingを使ったグラフ描画の詳しい解説。地図にデータをマップしたり、時系列プロット、ネットワークグラフなどの作成が具体例をもとに解説されている。
Processingは、主にwebデザイナー用のお絵描きツールだと思っていたが、この本ではデータの可視化にフォーカスしている。Processingを使っているので、javaベースのインタラクティブな図が作れて、簡単にappletを作ってwebに貼れる。

グラフはExcel等の出来合いのツールに書かせるだけの人が多いと思うが、それだと同じようなグラフしか書けない。ちょっと気のきいたグラフは、やはり自分で描画ツールを使いこなす必要があり、そのためにはdata visualizationの基礎知識は欠かせない。
この本では、データの取得、プリプロセシング(フィルタリング)、データ表現や操作感にも触れられていて、例題のソースをダウンロードして遊べるようになっている。個人的には、もう少し統計処理について書いてあれば良かったと思う。

時間ができればちょっと遊んでみたいツールである。

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