2008年4月アーカイブ

Norman本の中で見つけた話題。
リスク補償(risk compensation)とは、人間は安全性が高まったと感じると、よりリスクを取るように行動を変える傾向があるという理論。例えば、ABS付きの自動車に乗ると、走行スピードを上げる傾向があるというもの。
リスク恒常性(risk homeostasis)は、この考えの極論で、Gerald Wildeは安全対策をしてもその分危険な行動が増えるため全体の事故率は変わらないとして大きな波紋を呼んだ。

ポイントは、統計的に事故率をみると、技術面からだけの安全対策は期待したほどの効果がない場合が多く、それに対して、人間心理を考え注意喚起するような対策の方が効果的だということだろう。

Shared spaceは、このような考えのもとに、人が集まる公共の場所では信号や標識や歩道もなくし、道路利用者が自然と自覚と責任を持って行動するようにすることで、交通をスムーズにして事故を減らすというアプローチで、世界中で試みがなされていて成功しているらしい。(ヨーロッパのshared spaceプロジェクト)

インターネットの安全な利用やトラフィック増大への対策も、技術面だけでなく、このような考え方でアプローチするのがいい気がする。

The Design of Future Things
Donald A. Norman
Basic Books, 2007

futurethings.jpg

ユーザインターフェイスの権威、Normanの新しい本。
以前読んだ彼の2冊はとても面白かった。"The Design of Everyday Things"で、human centered designの重要性を説き、"Emotional Design"で機能的だけではなく感情に訴えるプラスアルファが必要だと語った彼が、この本では未来のインテリジェントな機械と人間とのインタラクションのあり方について考えている。

マシンには人間の持つコンテキストを十分に理解できない以上、人間がコントロールするモードとマシンが自律的に動作するモードをスムースに行き来できる必要性や、リッチで直感的なフィードバックの重要性を様々な例を挙げて説明している。

読み終わった感想だが、以前の2冊に比べてインパクトは薄かった。すらすらと読めるがあまり残る部分がなかった。
自分の専門に近いので評価が厳しくなっていると思うが、テクノロジーの可能性の多様性に比べて、インタラクションの捉え方がコンサーバティブで広がりがない気がする。未来を語るときにはもっとぶっ飛んだ発想がないともの足りなく感じるのかも知れない。

NIIの三浦先生が球面ディスプレイを買ったというので早速見せて頂いた。
magic planetという製品の16インチ(35cm)版だった。仕組みは、土台の部分に1024x768の小型プロジェクタが入っていて、ミラーで上向きに投影角度を変え、球面下にある魚眼レンズだけで内部に特殊コーティングされたアクリルの球面ほぼ全体に投影するという簡単なものだった。より大きいサイズのものだと1400x1050の解像度になるらしい。
同様のシステムにomniglobeというのがあるが、こちらは32インチからで、光学系ももう少し凝った構造になっている。

データ形式は経緯線が等間隔に直交する方眼図法(正距円筒図法)を使っていて、これをPCの第2画面で解像度をあわせてプロジェクタに出すだけである。静止画は付属のソフトウェアで自由に回転できる。
画像は思ったよりも鮮明で、少し照明を落とせばきれいに見える。解像度の限界があるので、あまり細かいものは表示できないし、斜めの線は回転させると少しちらつく。お値段は高級車ぐらいするとのことで簡単に買えるものではない。しかし、地球を回して見られるインパクトは大きく、なにより楽しい。いつの日かこれを使って地球規模のインターネットのトラフィック展示を作ってみたい。

P1000249.JPG

P1000250.JPG

インターネットの研究にトラフィックの実データは重要だが、研究者がこれを入手するのは容易でない。
実データのトラフィック解析によって、個人や組織のネット上での行動がある程度追跡できる可能性があり、そのリスクを負ってまでデータを研究利用に提供してくれる組織は数少ない。また、たとえある研究者がデータの提供を受けて研究成果を論文にまとめたとしても、別の研究者が同じデータを入手するのは簡単ではない。
これは大きな問題である。すべての科学技術の基盤は、客観性と再現性にあるとも言えるにもかかわらず、ネットワーク研究の分野では第三者による再現と検証が困難な状況になっているのだ。

このような状況を改善しようというコミュニティベースの試みが、"A day in the life of the Internet"プロジェクトである。(詳しくはCAIDAのDITLページ)
簡単に説明すると、(1)1年に一度、日を決めてさまざまな組織がインターネットのデータを収集する計測デーを実施し、(2)どのようなデータがどこに存在するかを目録化して、研究者が必要なデータを探せるようにする。

今年は3月18、19日にデータ収集が実施された。
昨年に続いてWIDEプロジェクトでも、トランジットリンクのパケットトレースを収集し、72時間分のデータを公開し、DatCatカタログに登録した。
昨年は目録化に時間がかかってしまったが、今年は一番最初に登録できたようだ。多くの研究の役に立つことを期待したい。

Constantine Dovrolis.
What would Darwin Think about Clean-Slate Architectures?
ACM CCR, vol 38(1), January 2008.
http://www.cc.gatech.edu/fac/Constantinos.Dovrolis/publications.html

ここ数年、ネットワーク研究の分野では、Future Internetと称してアーキテクチャをいちから設計しなおそうという活動が活発である。そして世界中で政府系の研究予算の多くが投入され、その分その波に乗らない研究予算が削られている。本論文は、このような傾向に正面から疑問を呈している。

論文では、複雑なインターネットの進化を生物の進化に例えながら、進化(evolution)的アプローチと再設計(clean-slate)的アプローチを比較して、既存のアーキテクチャをもとに進化することの優位性を主張している。

  • インターネット環境は変化が早く、かつ予想が困難。
  • これまでは、プロトコルやアプリケーションも、さまざまな亜種が生まれ、自然淘汰され、利用者に受け入れられたものが生き残るという進化的発展をしてきていて、これが環境変化に強いインターネットを作ってきた。
  • 普及しなかった技術(例えばRSVPやMBONEなど)は、その技術の優劣よりも、既存の環境や関連技術とのシナジーが作れなかったのが原因。
  • IPやTCPなどコアプロトコルはあまり変わっていないが、それこそが上下の層で多様な進化をするための基盤となっている。
  • 再設計しても、実用化される10年後にはすでに時代遅れになっているだろう。
  • 再設計もいいが、進化的アプローチの研究の重要性を再認識して、進化の種となる亜種を生む多様な研究をサポートするべきた。

Visualizing Data

| コメント(0) | トラックバック(0)

book_vida.jpg
Visualizing Data
by Ben Fry
O'Reilly Media, Inc. Jan 2008.

データの可視化のプログラミング本で、Processingを使ったグラフ描画の詳しい解説。地図にデータをマップしたり、時系列プロット、ネットワークグラフなどの作成が具体例をもとに解説されている。
Processingは、主にwebデザイナー用のお絵描きツールだと思っていたが、この本ではデータの可視化にフォーカスしている。Processingを使っているので、javaベースのインタラクティブな図が作れて、簡単にappletを作ってwebに貼れる。

グラフはExcel等の出来合いのツールに書かせるだけの人が多いと思うが、それだと同じようなグラフしか書けない。ちょっと気のきいたグラフは、やはり自分で描画ツールを使いこなす必要があり、そのためにはdata visualizationの基礎知識は欠かせない。
この本では、データの取得、プリプロセシング(フィルタリング)、データ表現や操作感にも触れられていて、例題のソースをダウンロードして遊べるようになっている。個人的には、もう少し統計処理について書いてあれば良かったと思う。

時間ができればちょっと遊んでみたいツールである。

再開

| コメント(0) | トラックバック(0)

自宅のサーバーにblogの設定をしてから、2年近く放置していましたが、再開します。
技術ネタを中心に書いていこうと思いますが、あまりマメじゃないので続くかなあ、、、

このアーカイブについて

このページには、2008年4月に書かれた記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2006年7月です。

次のアーカイブは2008年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。